アクティビスト投資事例を徹底解説!

ヘッジファンド

多くの上場企業が昨年度の本決算を終え、次年度以降の会社の業績や方針を開示する株主総会に注目が集まる時期となりました。今回はその中でも昨今話題となっているアクティビスト投資の活動に焦点を当て、日本と海外で注目されるアクティビスト投資事例を通じて、その背景や結果を深掘りしていきます。

アクティビスト投資とは

アクティビスト投資は、株主が企業の経営に積極的に関与し、企業価値を向上させることを目的とする投資手法です。アクティビスト投資家は、企業の株式を大量に保有し、経営陣に対して具体的な改革提案を行います。これにより、企業のガバナンスを改善し、長期的な成長を促進します。アクティビスト投資は、企業にとっても投資家にとっても重要な戦略となっており、持続可能な経済成長に寄与します。

事例1:村上ファンドの改革

村上ファンド会社概要

村上ファンドは、元通産官僚の村上世彰を中心に、元野村證券次長の丸木強、元警察官僚の滝沢建也らが率いた投資顧問会社グループです。中核企業は株式会社M&Aコンサルティングおよび株式会社MACアセットマネジメントであり、1999年に村上氏が通商産業省を退官後に設立しました。ファンド運用の旗印としてコーポレートガバナンスを掲げ、「物言う株主」として積極的かつ直接的な経営改善提案を行うことを主眼としています。

村上ファンドの投資戦略

村上ファンドの投資戦略は、コーポレートガバナンスに問題を抱える企業をターゲットにし、株主価値の向上を図ることです。具体的には、企業の経営陣に対して具体的な経営改善提案を行い、株価を上昇させることで利益を得ることを目的としています。例えば、設立から半年後に昭栄に対して行ったTOB(株式公開買い付け)では、不動産資産を十分に活用していないことに着目し、経営改革を促しました。。

企業改革の実例

昭栄のTOB(2000年)

村上ファンドは、昭栄の生糸や不動産資産の活用不足に目を付け、TOBを試みました。しかし、旧安田系金融機関やキヤノンの賛同を得られずに失敗しました。ただし、この取り組みにより昭栄の株価は上昇し、村上ファンドは3年間保有後、最終的に高値で売り抜けました。

東京スタイル委任状争奪戦(2002年)

村上ファンドは、東京スタイルの経営側に対し、大幅な増配や自己株式取得を提案しました。提案は拒否されましたが、株主総会での委任状争奪戦(プロキシーファイト)を行い、僅差で敗北しました。この件を通じて村上ファンドの知名度は急上昇し、コーポレートガバナンスの旗手として評価されました。翌年も同様の提案を行いましたが否決されました。

ニッポン放送事件(2005年)

村上ファンドが大量のニッポン放送株を取得し、経営に圧力をかけました。この動きが村上氏の逮捕のきっかけとなり、ファンドの活動に大きな影響を与えました

事例:収益性向上施策

村上ファンドは、コーポレートガバナンスの改善を通じて企業価値を高めることで、ファンドの収益性向上を実現しています。具体的な施策として、以下のような取り組みを行っています。

積極的なTOBの実施:昭栄に対するTOBや東京スタイルに対する増配・自己株式取得提案など、積極的な企業買収・経営改善提案を実施しました。
株価上昇を狙った保有株の売却: 昭栄の株価上昇を受け、3年間保有後に高値で売り抜けるなど、タイミングを見計らった株式売却を行いました。

ファンド規模の急速な拡大

東京スタイル事件以降、村上ファンドの知名度が上がり、ファンド規模が急速に拡大しました。最終的には4000億円を超える規模に成長し、投資活動の幅を広げました。
これらの施策により、村上ファンドは高い収益性を実現し、株主価値の向上を達成しました。

事例2:エフィッシモ・キャピタルの戦略

エフィッシモ・キャピタル会社概要

エフィッシモ・キャピタル(以下、エフィッシモ)は、2006年6月に高坂卓志と今井陽一郎によってシンガポールに設立されました。二人は村上ファンドに勤務していましたが、村上世彰の証券取引法違反によりファンドが閉鎖に追い込まれた後、エフィッシモを設立しました。2007年2月には佐藤久彰も合流しました。設立後、アメリカの大学基金からの出資を取り付け、現在ではアメリカやカナダ、ヨーロッパの大口機関投資家の資産運用を行っています。

事例:エフィッシモ・キャピタルマネジメントの投資戦略

エフィッシモの基本的な戦略は、コーポレート・ガバナンスに問題を抱えている割安株の買い占めです。会社側への批判を開始し、自己株買いなどに追い込んで高値売り抜けを図るという手法を取ります。村上ファンドと同様の戦略を踏襲していますが、村上ファンドがマスコミを利用して世論を巻き込むのに対し、エフィッシモは正論で会社の非を追及し、追い詰める手法を特徴としています。また、純投資目的の株式保有も行いますが、経営陣への重要提案を行うこともあります。過度な敵対行為は避けるとしながらも、その可能性は否定していません。

事例:企業改革の事例

エフィッシモは、いくつかの企業改革を実現してきました。以下にその代表的な事例を紹介します。

ダイワボウ情報システムの買い占め(2007年)

エフィッシモは、ダイワボウ情報システムの株式を大量に取得し、その後親会社であるダイワボウにこれらの株を買い取らせることに成功しました。この動きは、企業価値の向上を図るための戦略的な買い占めの一例です。

川崎汽船の取締役選任争い(2016年)

2016年の川崎汽船の株主総会では、エフィッシモが経営側と対立し、取締役の選任案を巡る争いが発生しました。最終的に、2019年にはエフィッシモが推薦する社外取締役が選任され、企業改革の一環として経営陣に対する影響力を強化しました。

東芝の臨時株主総会(2021年)

2021年3月、エフィッシモは東芝の臨時株主総会での株主提案を可決させました。この提案は、前年の定時株主総会での不正な議決権行使に対する独立した調査を求めるもので、日本企業のコーポレートガバナンスにおいて画期的な出来事とされています。

事例:収益性向上施策

エフィッシモは、設立から2018年までの年平均実質利回りが12.9%と、同期間のMSCIジャパンインデックスの2%を大きく上回る実績を上げています。収益性向上のための施策としては、以下の戦略を取っています。

コーポレート・ガバナンスの改善

コーポレート・ガバナンスに問題がある企業をターゲットにし、積極的な経営改善提案を行います。具体的には、自己株買いや不要資産の売却、大幅な増配などを提案し、企業価値を高めることを目指します。

企業への積極的な働きかけ

経営陣に対する批判や提案を通じて、企業の経営改善を促します。これにより、株価を上昇させ、保有株の価値を高める戦略を取っています。

高利回りの実現

エフィッシモは、コーポレート・ガバナンスに問題のある企業をターゲットにし、株価の上昇を図ることで高利回りを実現しています。これにより、設立からの年間平均実質利回りが12.9%という高いパフォーマンスを達成しています。

これらの施策により、エフィッシモは高い収益性を実現し、投資家に対して安定したリターンを提供しています。

事例3:エリオット・マネジメントの戦略

エリオット・マネジメント会社概要

エリオット・マネジメント(以下、エリオット)は、1977年にポール・シンガー氏によって設立された米国のヘッジファンドです。エリオットは、2020年末時点で運用資産が452億ドル(約4.7兆円)に達しており、世界最大のアクティビストファンドの一つとされています。エリオット・インベストメント・マネジメントLPは、エリオット・アソシエイツLPおよびエリオット・インターナショナル・リミテッドの運用子会社であり、ニューヨーク市に拠点を置いています。2020年10月、ポール・シンガー氏は本社をフロリダ州ウェストパームビーチに移転すると発表しました。

事例:エリオット・マネジメントの投資戦略

エリオットは、多様な投資戦略を採用しており、株式、ディストレス(破綻)証券、不動産、コモディティ、プライベートエクイティなどに投資しています。特に、破産または破産寸前の企業の債務に集中するディストレスト資産への投資が重要な戦略の一つです。ポートフォリオの3分の1以上が不良債権に集中していることが特徴であり、企業の価値を引き出すための積極的な経営介入を行います。

事例:企業改革の事例

ソフトバンクグループ(2020年)

エリオットは、2020年2月にソフトバンクグループの株式を30億ドル(約3,300億円)近く取得しました。ソフトバンクGの株価はエリオットの投資後に22%上昇しましたが、コロナショックで一時的に下落。しかし、自社株買い(2兆5,000億円)を実施したことで、2020年末には株価が8,058円にまで回復しました。

アルプス電気とアルパインの経営統合(2018年)

エリオットは、2018年にアルプス電気とアルパインの両社の株式を9%超取得し、経営統合を支持しました。同年10月に大量保有報告書を提出し、2018年12月のアルパインの臨時株主総会で経営統合が承認され、2019年1月に「アルプスアルパイン」が誕生しました。

事例:収益性向上施策

エリオットは、投資先企業の収益性向上を目指し、以下の施策を実施しています。

積極的な経営介入

エリオットは、投資先企業の経営に積極的に介入し、企業価値を高めるための具体的な提案を行います。例えば、ソフトバンクグループに対しては自社株買いを促し、株価を大幅に上昇させました。
ディストレスト資産への投資

破産または破産寸前の企業の債務をターゲットにし、企業の再建を通じて高いリターンを狙います。エリオットのポートフォリオの3分の1以上がこのようなディストレスト資産に集中しています。
多様な投資ポートフォリオ

株式、不動産、コモディティ、プライベートエクイティなど、さまざまな資産クラスに分散投資することで、リスクを分散しながら高い収益性を追求します。
エリオットは、これらの施策を通じて投資先企業の価値を引き出し、高いリターンを実現しています。

注目事例4:バリューアクト・キャピタル・マネジメントの戦略

バリューアクト・キャピタル会社概要

バリューアクト・キャピタル・マネジメント(以下、バリューアクト)は、2000年にジェフリー・アッベン氏によって米国サンフランシスコに設立されたヘッジファンドです。2018年6月時点で運用資産は150億ドル(約1兆6,000億円)に達し、アクティビストの中でも有数の規模を誇ります。他のアクティビストファンドと比較して穏健派と見なされており、企業経営陣との協力関係を重視しています。

事例:バリューアクト・キャピタルの投資戦略

バリューアクトは、投資先企業のポテンシャルを最大限に発揮させることを目標とし、グローバルチャンピオン企業への変革を支援することを目的としています。非公式の場で経営陣との関係構築に努める一方で、その方法が効果的でない場合は、株主としての権利を行使することも厭わない姿勢を持っています。株式の長期保有を基本とし、経営改善を促すための積極的な提案や協力を行います。

事例:企業改革の事例

任天堂(2019年-2020年)

バリューアクトは2019年4月に任天堂株を買い始め、コロナショックで株価が急落した2020年3月に保有株を増加させました。2020年4月に11億ドル相当の任天堂株を保有していることを明らかにしました。取締役を派遣する要求は出していませんが、任天堂の経営陣と複数回にわたり面談し、良好な関係を築いています。

オリンパス(2018年-2019年)

バリューアクトは2018年にオリンパス株の約5%を取得し、取締役を派遣する提案を行いました。オリンパスはこれを受け入れ、2019年1月にバリューアクトのパートナーを取締役に迎えました。その後、オリンパスの企業改革プラン「Transform Olympus」が発表され、株価は2018年12月の758円から2020年12月には2,380円に上昇しました。
マイクロソフト(2013年)

バリューアクトは2013年にマイクロソフト株を取得し、スティーブ・バルマーCEOの退陣を促しました。その後、メイソン・モーフィットを取締役として送り込み、経営改革を推進しました。マイクロソフトはクラウド事業を強化し、株価は2013年の30ドル前後から2020年末には222ドルにまで上昇しました。

事例:収益性向上施策

バリューアクトは、投資先企業の収益性向上を目指し、以下の施策を実施しています。

経営陣との協力関係の構築

経営陣との非公式な対話を通じて、企業のポテンシャルを最大限に引き出すためのサポートを提供します。任天堂やオリンパスとの関係構築はその一例です。

取締役派遣による経営改善

必要に応じて取締役を派遣し、企業の経営改革を直接支援します。オリンパスへの取締役派遣は、この施策の成功事例です。

主としての権利行使

非公式な対話が効果を発揮しない場合は、株主提案や取締役選任を通じて企業改革を推進します。マイクロソフトでのスティーブ・バルマーCEOの退陣要求はその一例です。
バリューアクトのこれらの施策により、投資先企業の価値向上と収益性向上が実現されています。

まとめ

日本のアクティビスト投資家による事例からは、企業価値向上のための具体的な戦略や施策を学ぶことができます。これらの事例は、アクティビスト投資を目指す投資家にとって貴重な教訓となり、今後の投資戦略に活かすことができるでしょう。アクティビスト投資は、企業のガバナンス向上や持続可能な成長を促進する重要な手段として、今後もますます注目されるでしょう。

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