ゲルダウ(GGB)割安検証:PBRだけで買わない—Section232リスクと分散投資3条件

株式投資

本記事では、ゲルダウが北米比率の高い電炉(EAF)系企業である点を軸に、米国のSection232による関税強化が追い風となる一方で中国の過剰供給や景気後退が逆風になる構図を整理し、投資判断に必要なKPIと分散投資の実務的条件を解説します。

「利益は伸びるのに株価が動かないのはなぜ?」という疑問に対して、PBRの低さはチャンスでも罠でもあるため、政策動向・北米の販売動向・株主還元の実績を順に確認することが肝心です。

Gerdau(ゲルダウ)の事業概要 – “北米で稼ぐ”電炉系鉄鋼大手

ゲルダウへの投資を考える上で重要なポイントは、ブラジル企業でありながら北米事業の存在感が大きく、北米とブラジルが並ぶ主要な稼ぎ頭になっているという事業構造です。

この特徴が、米国の政策や経済動向から大きな影響を受ける理由となっています。

ここではゲルダウがどのような企業なのかを、ブラジル最大級の鉄鋼メーカーとしての立ち位置と、ビジネスモデルの核となる投資判断で重要な電炉(EAF)の強みという2つの側面から詳しく見ていきましょう。

この事業構造を理解することが、ゲルダウの株価が割安に見える背景と今後の見通しを分析する上での土台となります。

ブラジル最大級の鉄鋼メーカーとしての立ち位置

ゲルダウは1901年にブラジルで創業された、南米を代表する鉄鋼メーカーの一つです。

長い歴史を持ち、現在は世界10カ国で事業を展開し、鉄鋼製品を供給しています。

しかし、投資家が注目すべき点は、その収益構造にあります。

近年の売上構成を見ると、北米事業はブラジル事業と並ぶ規模感で推移しており、ゲルダウの業績はブラジル国内の景気だけでなく、米国の建設や自動車といった主要な鉄鋼需要の動向にも大きく左右されます。

このように、ゲルダウはブラジルに本社を置く企業でありながら、「北米で稼ぐ鉄鋼メーカー」という側面が非常に強いのです。

そのため、米国の経済政策や関税の動向を分析することが、ゲルダウへの投資判断には不可欠となります。

投資判断で重要な電炉(EAF)の強み

ゲルダウのもう一つの重要な特徴は、電炉(Electric Arc Furnace, EAF)を主力としている点です。

電炉とは、鉄スクラップを電気の熱で溶かして新たな鉄鋼製品を生み出す生産方式を指します。

この電炉方式は、鉄鉱石と石炭を原料とする伝統的な「高炉」方式と比較して、3つの大きな強みを持っています。

第一に、高炉のような大規模な設備が不要なため、設備投資額を低く抑えることが可能です。

第二に、需要に応じて生産量を柔軟に調整しやすく、市況の変動に対応しやすい点が挙げられます。

そして第三に、環境負荷が小さいことです。

電炉(スクラップ電炉)のCO2排出量は、一般的な高炉系に対して概ね3割程度(約3分の1程度)に抑えられるとされます。

ゲルダウが採用する電炉方式は、景気変動への耐性、コスト競争力、そして近年の脱炭素化という世界的な潮流にも合致しており、事業の安定性と将来性をもたらす重要な強みとなっています。

このビジネスモデルが、厳しい市況の中でもゲルダウの収益性を支える基盤です。

ゲルダウ割安の背景 – 米国鉄鋼関税Section232と世界の需給バランス

ゲルダウの株価を分析する上で、個別の業績以上に国際的な政策と世界の需給バランスを理解することが不可欠です。

ゲルダウの収益環境は、追い風となる米国の関税強化、懸念材料である世界的な保護主義と中国の過剰供給、そしてこれらの要因が複合的に作用することで生じるPBRの低水準という、複数の要素によって形成されています。

これらの外部環境を読み解くことで、ゲルダウの割安感の正体が見えてきます。

米国による鉄鋼関税の再強化という追い風

追い風の中心にあるのが、米国の「通商拡大法232条(Section 232)」です。

これは、特定の輸入品が米国の安全保障を脅かすと判断された場合に、大統領権限で関税や数量制限を課すことができる法律を指します。

この法律に基づき、米国は鉄鋼製品に対して追加関税を課してきましたが、さらに2025年6月以降には最大50%へと関税率を引き上げる方針を示しました。

北米事業の比率が高いゲルダウにとって、米国内での輸入品との価格競争が有利になるため、これは直接的な収益向上要因となります。

この関税強化は、米国内の鉄鋼価格を安定させる強力な下支えとなり、ゲルダウの北米事業における収益性を高める重要な要因となります。

世界的な保護主義と輸出の迂回という懸念

「保護主義」とは、自国の産業を守るために輸入品に関税を課したり、数量を制限したりする政策のことです。

米国の関税強化は、この保護主義的な動きの代表例と言えます。

しかし、この動きは副作用も生み出します。

米国市場への輸出が難しくなった鉄鋼製品が、関税の壁が低い他の地域へと流れ込「輸出の迂回」という現象が発生するからです。

例えば、欧州連合(EU)は、域内市場への鉄鋼製品の流入増加を警戒し、輸入制限措置の見直しを検討しています。

米国の関税政策はゲルダウにとってプラスですが、その結果として世界的な需給バランスが崩れ、北米以外の市場で価格競争が激しくなるというリスクも同時に存在します。

長期的な重しとなる中国由来の過剰供給圧力

世界の鉄鋼市場を語る上で避けて通れないのが、「中国の過剰供給」という構造的な問題です。

これは、中国国内の需要をはるかに超える量の鉄鋼が生産され、安価な製品として世界中に輸出されることで、国際的な鉄鋼価格全体を押し下げる圧力となっている状況を指します。

世界の粗鋼生産のうち、半分以上を中国一国が占めているのが現状です。

この巨大な供給能力が存在する限り、一部の地域で需要が回復しても、市況全体の上値は抑えられやすくなります。

鉄鋼業界の国際的なフォーラムでも、この過剰供給問題は常に主要な議題として取り上げられています。

米国の関税のような短期的な政策も株価を動かす要因ですが、この中国の過剰供給という長期的な問題が解決されない限り、鉄鋼業界が持続的な成長サイクルに入ることは難しいのです。

PBR(株価純資産倍率)が低水準で推移する理由の分解

「PBR(株価純資産倍率)」とは、企業の純資産(株主の持分)に対して株価が何倍かを示す指標です。

一般的に1倍を割り込むと、市場がその企業の解散価値よりも低く評価している状態、いわゆる「割安」と判断されることがあります。

ゲルダウのPBRは、多くの期間で0.6倍から0.7倍台という低い水準で推移しています。

これは、鉄鋼業界が抱える複数のリスクを市場が株価に織り込んでいる結果です。

具体的には、景気の波に業績が大きく左右される循環的な産業特性、各国の政策変更リスク、そして前述した中国の過剰供給という構造問題が挙げられます。

したがって、ゲルダウの低いPBRは、単にお買い得であることを示すサインではありません。

鉄鋼業界が本質的に抱えるリスクや不確実性を反映した、市場の合理的な評価と理解することが重要です。

ブラジル鉄鋼株への分散投資 – リスク管理に役立つ3つの条件

鉄鋼株のような景気敏感株へ投資する上で最も重要なのは、ポートフォリオ全体でリスクを適切に管理することです。

ゲルダウという一つの企業だけでなく、より広い視野で資産を守り育てる戦略が求められます。

ここでは、鉄鋼株投資で直面する代表的なリスク要因を具体的に理解し、ArcelorMittalや日本製鉄など他社も視野に入れた分散の考え方、そして景気の波を乗りこなすための投資タイミングの管理術という3つの条件を解説します。

これらの条件を実践することで、特定の銘柄や市場の動向に一喜一憂することなく、安定した資産形成を目指すことが可能になります。

鉄鋼株投資で直面する代表的なリスク要因

鉄鋼株投資におけるリスクは多岐にわたりますが、まず押さえておきたいのが、業績が経済全体の動向に大きく左右される「景気変動リスク」です。

景気が後退すると、建設や自動車といった主要な需要先の活動が鈍り、鉄鋼製品の需要と価格が直接的な打撃を受けます。

例えば、世界的な金融引き締めによって金利が上昇すると、企業の設備投資や個人の住宅購入が手控えられ、鉄鋼需要が減少します。

これに加えて、鉄鉱石や原料炭などの原料コストの変動、ゲルダウの場合はブラジルレアルと米ドルの為替レート変動も、企業の収益性を大きく左右する要因となります。

これらのリスクは互いに影響し合って発生するため、単一の要因だけでなく、複数の視点から市場環境を総合的に分析する必要があります。

ArcelorMittalや日本製鉄など他社も視野に入れた分散の考え方

ゲルダウという一つの銘柄に投資を集中させるのではなく、地域や事業モデルが異なる企業へ資産を分散させることは、リスク管理の基本です。

特定の国や地域の経済・政策に依存するリスクを軽減する効果が期待できます。

例えば、ブラジルに拠点を置くゲルダウだけでなく、世界中に生産拠点を持ち、多様な製品群を手がけるArcelorMittal、高い技術力で高付加価値製品に強みを持つ日本の日本製鉄やJFEホールディングス、アジア市場で存在感を示す韓国のPOSCO Holdingsなどをポートフォリオに組み入れることを検討します。

これにより、一国の景気後退や不利な政策変更がポートフォリオ全体に与える影響を限定的にできます。

さらに、鉄鋼セクター内での分散にとどまらず、鉄鉱石などの資源セクターや、安定した需要が見込めるインフラ関連セクター、あるいは相関性の低い高配当株ETFなどを組み合わせることで、より強固なポートフォリオを構築できます。

景気敏感株と付き合うための投資タイミングの管理術

景気敏感株(シクリカル株)とは、その名の通り、景気のサイクルに応じて業績や株価が大きく変動する性質を持つ銘柄群を指します。

鉄鋼株はその典型例であり、投資タイミングを見誤ると大きな損失につながる可能性があります。

このような銘柄では、株価が高いときに一度に大きな資金を投じるリスクを避けるため、購入時期をずらす「時間的分散」が非常に有効です。

例えば、毎月1万円ずつなど、決まった金額を定期的に購入し続ける「ドルコスト平均法」は、価格が高いときには少なく、安いときには多く購入できるため、平均購入単価を抑える効果が期待できます。

景気の波に乗り、大きな利益を狙える魅力がある一方で、その変動性の高さは常に意識しなければなりません。

感情に流された売買を避け、あらかじめ定めた自分自身のルールに従って機械的に投資を実行することが、景気敏感株と上手く付き合っていくための重要な鍵となります。

今後の株価を占うゲルダウ投資の判断材料

ゲルダウの株価の先行きを見通す上で、PBRのような静的な指標だけを見ていてはいけません。

最も重要なのは、株価を動かすきっかけとなるカタリストを事前に把握しておくことです。

具体的には、米国の関税政策、北米での設備投資、株主還元の実績、そして割安是正を見極める指標という4つの観点から、今後の変化を追っていく必要があります。

これらの材料がポジティブな方向に動いたとき、ゲルダウの「割安」な株価が是正される可能性が高まります。

注目すべき政策面の変化 – 米国関税の動向

ゲルダウの株価に最も直接的な影響を与えるのが、米国の「通商拡大法232条(Section 232)」です。

これは、国家安全保障を理由に特定の輸入品に関税を課すことができる法律で、鉄鋼やアルミニウムが対象になっています。

バイデン政権は、特定の国からの鉄鋼・アルミニウム製品に対する関税を25%から50%へ引き上げる方針を示しており、北米に多くの生産拠点を持つゲルダウにとっては、価格競争力の面で大きな追い風となる可能性があります。

投資家としては、この関税政策が計画通りに維持・拡大されるのか、あるいは他国との交渉によって例外措置が設けられないか、ホワイトハウスや米国通商代表部(USTR)の発表を注視していくことが重要です。

北米での設備投資計画に見る事業の進捗

企業の成長意欲や将来の見通しは、「CAPEX(資本的支出)」、つまり設備投資の計画に明確に表れます。

ゲルダウにとって、北米市場での投資動向は事業の生命線です。

保護主義的な関税環境を背景に、ゲルダウはメキシコでの新工場建設計画よりも、既存の米国工場の能力増強を優先する検討を進めていると報じられています。

これは、米国内の旺盛なインフラ需要を確実に取り込もうとする戦略の表れです。

今後の決算発表や経営陣の発言で、この北米での設備投資が具体的にいつ、どのくらいの規模で実行されるのかが明らかになれば、市場はゲルダウの将来性を再評価するでしょう。

配当や自社株買いといった株主還元策の実績

利益が出ても株価が上がらない局面で、投資家の信頼を繋ぎとめるのが「株主還元策」です。

これは、企業が稼いだ利益を配当や自社株買いといった形で株主に分配する施策を指します。

ゲルダウは株主還元に積極的で、調整後利益の最低30%を配当に充てる方針を掲げています。

実際に2024年には配当と自社株買いを合わせて29億ブラジルレアルの還元を実施し、さらに新たな自社株買い枠も承認されました。

この還元方針が今後も継続されるか、自社株買いが計画通りに進捗するかは、ゲルダウの株価を下支えし、高配当株としての魅力を維持する上で極めて重要なチェックポイントになります。

割安是正を見極めるための具体的なチェック項目

ここまで見てきた政策、事業、還元の各要素が、実際に企業価値に反映されているかを確認する必要があります。

そのために、いくつかの「KPI(重要業績評価指標)」を定点観測することが大切です。

例えば、北米事業の販売数量や利益率が四半期ごとに改善しているかを見れば、関税の恩恵を享受できているかが分かります。

また、PBRが過去の平均レンジである0.6〜0.7倍から上放れる動きを見せるかも、市場の評価が変化しているサインです。

これらの指標を総合的に見て、複数の項目でポジティブな変化が確認できたとき、それは「割安が是正される」という投資シナリオが現実味を帯びてきたサインと判断できるのです。

まとめ

ゲルダウの評価は「PBRが低い」だけでは完結しません。

米国のSection232を起点とする政策環境、世界需給(中国の供給圧力)、株主還元の継続性、北米中心のCAPEXの方向性が揃って初めて“割安是正”の確度が上がります。

本記事はこの4点を整理し、投資家が追うべきKPI(北米の販売数量・マージン・稼働率、還元実績、投資計画の具体化)を提示しました。

運用としては、KPIが改善方向に揃うかを確認しながらポジションを段階的に構築し、政策変更や投資計画の更新をカタリストとして定期的に見直すアプローチが適しています。

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